昔の大学生

実家はアパートを経営していたので幼いころから大学生の生活はいわば自分の生活の隣にあった。

実家周辺には電気通信大学があり、また沿線沿いに中央大学やらいろいろな大学があるため、大学生は身近な存在だ。

1970年ごろの学生というのは今の学生からは想像もできないほど質素に暮らしていてよくまあこんなぼろアパートに住んでくれたものだと思う。

昔の学生は私などが外を歩いていると気楽に話しかけてきたものだった。そして必ず部屋に遊びに来いと誘われた。子供好きだったわけでもないのだろうが、当時の学生は地方から上京してきて実家に兄弟のいる人も多かったので自然と子供の世話をするのが当たり前だったように思う。

学生と子供の交流は良くも悪くも刺激的だった。

コーヒーの味を覚えたのも学生の部屋だった。それまでインスタントしか飲んだことのなかった私はあるコーヒーとジャズ好きの学生の部屋でまさに本物のコーヒーを飲んだのだった。

豆をひいてる時から香りは部屋に漂い出し、それをドリップする時には部屋中がコーヒーの濃厚な香りで満ちた。そうして出来上がったコーヒーは見たこともないほどどす黒くて一瞬飲むのを躊躇した。とにかく一口飲んでみろと言われて私は熱いコーヒーに顔を近づけた。

焦げたような強い香りがまず鼻につく。それから口をつけるととんでもなく苦かった。学生は砂糖やミルクはいっさい許してくれなかった。ストレートに飲めというのがルールとなっていた。私はいつも学生の部屋に数時間遊んでいたが、その間にたった一杯のコーヒーを何とか飲んでいた。

この学生は日大の芸術学部の人だったが、映画を作っていて結局卒業後も好きな映画を作っているうちに彼女にも振られて実家に帰っていった。学生が実家に戻った後、部屋に残された大量のカチンコが今でも思い出される。

バイクの好きな学生もいた。電気通信大学の人でいつも週末にはバイクのエンジンを分解して掃除して組み立てるのが趣味のような人だった。この人のおかげで私は内燃機関の原理から構造、組み立てまですべてを知ることができた。この人は私の家の真上に住んでいて、ある日、夕方父とテレビを見ていると上がゆさゆさと軋んでいた。短気な父は私に上に行って注意してこい!と言いつけ私は素直に階段を上がり、いつもカギがかかっていない窓をガラッと勢いよく開けた。うるさいってよ!と私は言葉を発しながら開けたと思う。

窓を開けると炬燵に下半身を埋めた状態でその学生が女性の上に真っ赤な顔で乗っかり腰を動かしていた。学生は振り返りもせずにばかやろー!と怒鳴った。私は無言で窓を閉めてあわてて階段を下りた。

翌日、私が階段を下りるとその学生がバイクを整備していた。私は何とも言えない気持ちだったので通り過ぎようとしたが、学生は笑顔でよ!手伝うか?と言ってくれた。私は少しうれしくなり手伝った。二人とも前日のことは何も言わなかった。

麻雀ばかりやっている学生もいた。うるさかったが、誰も何も言わなかった。ある朝私が外に出るとその学生の部屋の窓がガラッとあいた。私は反射的にそちらを見ると、窓を開けて女性が全裸で両手をあげて大あくびをしていた。すると直後男の手が女性の体に巻きつき、そのまままた窓は閉まった。ビックリ箱でも開けたような気分で一瞬呆然とした。ふと足元を見ると猫の耳が食いちぎられて落ちていた。するめの頭にそっくりだなと思った。

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